(・・・何だこれは)


三成は眩暈がした。
いや、決して自分のセンスがいいなどとは思っていない。
むしろ以前は左近に「その服はちょっと・・・」とか言われたような気がしないでもない・・・っていやこちらの話はどうでもいい。
今問題なのは目の前のこの男の格好だ。

薄桃色の半袖ポロシャツ。
ベージュのズボン。
シャツはしっかりズボンの中に入れている。
そして腰に結ばれたトレーナー。

言いたいことがありすぎてまとまらない三成は、とりあえず一言、叫んだ。


「〜〜〜っっっ!! 何だ貴様は!!」





ひとかけらの空 2





「あ、はい。 真田幸村と申します」


幸村と名乗った青年は、三成の怒気を込めた言葉をぼんやりと返してみせた。
ボケに加えて更なるボケ。
三成はこの時ばかりは自分の中のツッコミ気質を恨んだ。
というかいつも彼にツッコミをさせる、愛だの義だのを叫ぶ同級生の指揮専攻の友人を思いっきり呪った。

が、その間口は振られたボケに正確なツッコミを入れていた。


「そんな生温い反応など望んでいない! 貴様その格好は何なんだ!! 40代のおっさんのゴルフウェアでもあるまいし!!!」
「40代・・・?? あ、よくお分かりになりましたね! これは父上から貰い受けました。 わしがお前の年の頃に着ていたものだと」
「・・・数十年前のファッションををそのまま踏襲しているってことに気づいているのか」


何だこいつは。
なんだかまるっきり会話になっていないような気がする。
兼続とも時々会話にならないが、こいつもそれと同等なのではないだろうか。

三成は小さく舌打ちをすると、ひどく疲れを感じて無視を決め込む事にし、いつもの食堂の席に着くと黙々と夕飯に手をつけ始めた。
たかが同じ寮に住むというだけの人間じゃないか。
あまりのセンスにツッコミをせずにはいられなかった(そして言い切ったことに後悔はしていない)が、今後自分とそれほど 関わってくるとも思えない。
人付き合いなど面倒だ。
全身で拒絶のオーラを出し始めた三成に気づいたのか、幸村がおずおずと口を開いた。


「すみません・・・、うちはあまりお金がないので服とかは使い回しが多いんです・・・。 お気にさわったのなら謝ります」


意外な反応に三成はふと顔を上げる。
そこには黒々とした眉尻を下げ、心から申し訳なさそうな年下の青年の顔がある。
上辺だけではない真摯な反応に三成は少し驚いた。

別に謝ってもらいたかったわけではない。
三成自身にも、どちらかというと自分が言いたいことだけを言って難癖をつけただけのような自覚がある。
そして大概の人間なら、そこから売り言葉に買い言葉といった感じで反論してくる。
三成も舌戦で負ける気はないから、収集がつかなくなったりするのだが。

・・・なんだ、ただの苦学生だったのか。
多少の罪悪感を感じたものの素直に謝罪の言葉が出せず、視線をそらしながら・・・別に、とだけ呟こうとした三成だったが、


「・・・私も格好良いと思ったのですが・・・」


という幸村の呟きに、机に思いっきり頭をぶつけた。
・・・やはりセンス最低だな!!!というツッコミを心にしまっておくのに必死だった。
と、そこに。


「うふふ、もうすっかり仲良しだね! 大丈夫だと思ってたよーやっぱり子供どうしのことは子供同士に任せるのが一番!」 


そういえばこの人もいたんだった、と三成は嘆息した。
確かに今まで一言も口を挟んでこなかったのは不思議だと思っていたけれど。


「・・・何がもう仲良し、ですか」
「仲良しじゃない! 三成が初対面の人とこんなに楽しそうに話すの珍しいもの!」
「・・・」


確かに”楽しそう”かどうかは置いておいて、初対面の人間とこれだけ長く話すことは、自分にとってかなり稀だ。
しかも自分が話題を振ったようなもの。
不覚、と三成は自分を悔やんだ。
だが、幸村の方はというと。


「おねね様、仲良くなどありません・・・その、私が怒らせてしまったようですし・・・」


と、ひたすら低姿勢。
そうなの?と、ねねも目配せを送ってくる。
元は自分が撒いた種だ、・・・仕方ない。
三成は溜息をつくと、がたりと音をたてて椅子から立ち上がった。


「・・・石田三成」
「え?」
「2度は言わん! それにお前に怒ったわけでもない!」
「あ、はい・・・すみません。よろしくお願いします・・・石田さん」
「苗字で呼ぶな! それと必要以上に謝るな! わかったか!」
「え、あ、はいっ」


どもりながらも答えた幸村の返事を聞くと、三成はまた何事もなかったように椅子に座り、味噌汁に口をつけた。
視線はねねにも幸村にも合わせようとはしない。
わざと一心に夕食に集中しようとしているように見えた。
幸村はというと、そんな三成の様子を伺いまだおろおろとうろたえている。

満足そうににっこり頷いたねねは、その場の雰囲気を一気に変えるため、ぱんっと手を打った。


「うん、万事解決だね! じゃあ三成、明日幸村の引越し作業手伝ってあげてね!」


ばっと音を立てそうな勢いで、三成はねねを振り返った。
何故、と切れ長の目が訴えている。
ねねはそんな反応を軽く無視してさらりと言ってのけた。


「もっと仲良くなるチャンスじゃない!」
「いや、」
「大丈夫! 重たい荷物は引越し屋さんが持ってくれるから!」
「そういう問題じゃ、」
「二人でやった方が早く終わるしね!」
「ちょ、あの、」
「わかりづらい反応して困らせたでしょ?」
「ですがそれはもう、」
「手伝いが終わったら練習部屋使っていいよ!」
「・・・う」


有無を言わさぬねねオーラ。
三成に反論する隙さえ与えない鮮やかな口技であった。
別名、ごり押しとも言うが。


「ってことだから幸村も、わからないことがあったらあたしか三成に聞いてね!」
「え、あの・・・先輩にそのようなことをさせるわけには」
「うん、決まり! じゃあ二人とも明日に備えてたくさん食べてね!!」


当然新人・幸村も成す術なし。
おそらくこの人にかなう人はいるまい。
皿に追加された巨大ハンバーグを見て、三成は盛大に溜息をついた。

また、面倒なことになりそうだ。












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義トリオをボケとツッコミに思いっきり分けてすみません。
ちなみに当サイトでは、幸村=ボケ、三成=ツッコミ7ボケ3、兼続=ツッコミ3ボケ7でお願いします。
センスのない幸村が書けて満足です!
そしておねね様最強。






2007.9.23up