おばけなんて怖くない 「ゆ、幸村は幽霊の類は信じないのか?」 「え?」 ここは三成の居室。 二人でお茶を飲みながら休憩していると、ふと三成が口にした。 幸村は小首を傾げる。 大柄な体の男に似合わない仕草ではあるが、幸村がやるとなんだかかわいく思えてしまう。 そういう思いを持つあたり、自分は大分この男にやられているな、と三成は思った。 唐突に思えるこの話、三成にとっては唐突などではない。 どういう話の流れでそうなったかは覚えていないが、幸村と左近と光秀と4人で納涼に行ったとき、左近に「長い黒髪の女」の怪談話をされたときのこと。 三成は左近のいやな感じの話しぶりにペースを乱され(怖がっていたわけでは断じてない!)、幸村の前で失態を演じてしまったのである。 その時幸村はというと、“怪談”を“階段”と間違えて天然を炸裂させていたが(それはかわいいので良しとする)、怪談を理解した後出会ってしまった正体不明のアレを目の前にしても、「物の怪め、覚悟!」と勇ましく立ち向かった上、結局三成を背中に庇いながら屋敷まで送り届けてくれた。 「三成殿、私はいつでもお傍におりますから」と、微笑みながら三成の手を握ってくれるというオマケ付きで。 なにあれ、幸村めっちゃかっこいい。 と、思うだけで済むわけもなく。 男として攻めとして(ここは三幸サイトだ!)、そこから数日ものすごくへこむこととなった。 ちなみに左近にはものすごいにやけ顔で笑われた気はするが、持っていき忘れた鉄扇で制裁を与えておいたから奴が話を蒸し返してくることはないだろう。 ということで、三成は幸村にその真意を迫るべく尋ねたのである。 もちろん三成だって幽霊の類なんか信じているわけではない。 あれは調子が悪かっただけだ、間違いなく! …だが万が一幸村が信じていないとするならば、俺としても覚悟を決めねばなるまい…、と突撃気分であった。 固唾をのんで見守っていると、当の幸村が口にしたのは意外な答えだった。 「そうですね…、見えたり触ったり出来るような幽霊の類はいないと思います」 「そ…そうか、」 「ただ」 「…ただ?」 「五感で感じられなくても、いると“感じられる”幽霊はいると思います」 その答えには三成が首を傾げる。 幸村はそんな三成の態度に困ったように笑うと続けた。 「怨念を持って幽霊自身が危害を加えてくるようなことは、ないと思います。でも魂のようなものがただ見守っているだけ、そういうことはあるのではないでしょうか」 「ほう?」 三成は興味深そうに幸村の話に耳を傾ける。 だが、次に幸村が紡いだ言葉に、三成は盛大に眉をしかめた。 「もし怨念のある幽霊が人に危害を与えるようなことがあるとすれば、私などはもうとっくに死んでいますから」 はは、と薄く笑いながら持っていた湯呑を握りしめる幸村の指先を見ると、三成はおもむろに立ち上がる。 口を動かし始めた幸村の言葉を遮った。 「わたしは…」 「多くの者を殺してきたから、等と続けたら俺は許さんぞ、幸村」 ひくり、と幸村の肩が跳ねる。 溜息を零しながら「…図星か」と呟くと、手を伸ばして幸村の体を包み込んだ。 いっそ哀れに思えるほど幸村の体が強張る。 飲み終わった湯呑がことりと音を立てて幸村の手から落ちた。 「…すみません」 「謝るな。だが覚えておけ、幸村」 少し体を離すと三成が幸村の顔を正面から捉えた。 誰もが見惚れるような整った三成の顔の中で、特に印象的なその目。 その真っ直ぐな瞳に射抜かれ幸村はひるむ。 だが目を逸らすことは出来なかった。 「先日、お前は俺の傍にいると言ったな。それは俺も同じだ。俺も常にお前の傍にいる。お前の業は俺も背負う。だからそのようなこと、二度と言うな」 言い終わってから、何て恥ずかしいことを言ったのだ俺は…と、三成が急に勢いをなくす。 ごまかすように幸村の肩に顔を埋めるとそのまま硬直する。 「…はい」 幸村が小さく零した声を聞き届けると、三成は赤くなった頬のまま力を込めた。 幸村もまたおずおずと三成の背中に手を回す。 二人が互いに恥らいながら体を離すのにはもう少し時間がかかりそうだった。 そんな二人の様子を外で見守っていた者がいたことに、二人は気づかない。 兼続が土産を片手に苦笑する。 この分では半刻後にもう一度来たほうが良さそうだ。 全く…、と兼続はどこへともなく呟いた。 「このようなアツさでは幽霊も近寄りようがないではないか。そうですよね、謙信公、信玄公?」 end. 兼続は間違いなく見えると思う。 声優奥義「夏の夜の話」ネタを思いのままにみつゆきに捻じ曲げました。 いちおうガンバった結果みつゆきになれたよね?(自信なし) 途中まで三幸なのか幸三なのかがわからないみつゆきがだいすきです♪(笑) 2012.09.02up |