僕が初めてユキムラに会ったのは、皆が思ってるよりずっと最近のこと。






僕の背中には羽根がある






「おことらはいつも仲良しじゃなぁ」


のんびりとした声が聞こえて、僕は少し顔を上げる。
ユキムラが“お館様”って慕っているシンゲンだった。
聞きなれた声だったので、僕はまた元の位置に視線を戻した。


「ユキムラが帰ってくるにはもうちょっと時間がかかるよ。クノイチと一緒にお使いを頼んじゃったからね」


了解、とばかりに僕は喉を鳴らす。
ユキムラが用事で出掛けたときの僕の定位置は、ダイチの城門前って決まってる。
帰ってくるまでひと眠りしようかな、と首を下ろそうとすると、シンゲンが僕の隣に座り込んだのが見えて振り返る。
てっきりすぐお城に戻るものだと思っていたシンゲンは、もう少しここに居座る気らしい。


「ダイチの国の居心地はどうかね?悪いところじゃなかろう?」


再び首を上げて僕は城下町を見下ろす。
うん、嫌いじゃないよ。
もちろん僕にとってはカエンの方が住みやすいけれど、ここはお日さまが見えてあったかい。


「おことがいてくれると、ユキムラも落ち着いてここで過ごせるよ」


シンゲンも同じように町の様子を眺めながら僕に言った。
その言葉の意味を僕は知っている。
今やユキムラはダイチの国出身のブショーとして知られている。
けれど僕と会うまでは、ユキムラはブショーではないと思われていた。

ダイチは青空と岩山と広大な砂原に囲まれた国。
じめんポケモンが暮らすのに最適な土地だ。
でもユキムラは、じめんポケモンとは一切リンク出来なかった。
シンゲンはグラードンすらも仲間にしてしまうじめんポケモンのプロ。
ユキタカおじいちゃんは昔からずっとワルビアルと一緒にお館様を支え続けてる。
マサユキお父さんはウルガモスを連れているけど、サイホーンの気持ちだってわかる。
それなのにユキムラは、ウパー、ヨーギラス、モグリュー、イワーク…どのポケモンとも心が通わせられない。
ユキムラは、ずっと一人だった。

それはゲンムの国・カエンの国と、他国に行ったときも変わらなかった。
僕には人間のことはよくわからないけれど、国と国を繋ぐための役目をしていたんだって。
その時からの知り合いらしいカネツグとミツナリが、初めて会ったユキムラの言葉に驚いたって言っていたのを聞いたことがある。


『私はブショーではありません。ですからこの槍にてお守りいたします』


随分大人びた子供だと思ったよ、とカネツグが笑っていた。
ユキムラもあの時は失礼を、なんて苦笑しながらも楽しそうだった。
カネツグとミツナリとは、ユキムラは今でもとっても仲良しだ。


「大変な思いをさせちゃったが、ゲンムやカエンでは良い巡り合いがあったようじゃのう」


そんな時、カエンの国で僕らも出会った。

火山が活発でいつも熱いカエンの国だけど雨は降る。
僕たちほのおポケモンは、雨の日が好きじゃない。
近くの洞窟で途方にくれながら雨宿りしていた僕に、今より少し幼かった君は手を差し伸べてくれた。


『私と共に行こう、ヒトカゲ』


人間とあまり会ったことがなくてすごく緊張していた僕。
君は微笑みながら僕を腕に抱いて、ずぶ濡れになりながらずっとこの炎を庇ってくれた。

この尻尾の炎は僕の命。
そう簡単には消えたりしないよ。
僕は君に伝えたかったんだけど、まだリンクしたてでわからなかったよね。
それでもその気持ちがすごく嬉しくて。
あの日から、僕はこの炎が消えるまで、君の側にいようって決めたんだ。


「ユキムラも、カエンからおことを連れて帰ってきたとき、すごく嬉しそうな顔をしておったよ」


まるで僕の考えていることが伝わったかのような言葉に、驚いて僕は振り返る。
どうしてわかったんだろう。
不思議そうに見つめた僕に、シンゲンが豪快に笑いながら立ち上がった。


「実はわし、おことの気持ちもちょっとわかっちゃうんじゃよ。かっこいいじゃろ?」


城内に戻っていくシンゲンが、帰り際に一つウインクするのが見えた。










「待たせたな、リザードン」


大好きな声が僕を呼ぶ。
いつも気を張っている君の表情が少し柔らかい。
何かあったの?と首を上げると、ユキムラが僕の頭を撫でた。


「先程ヌオーが道を塞いでいたんだが、私にはやはりヌオーの心は読めなくてな。結局くのいちにどかしてもらった」


苦笑しながら教えてくれる。
僕は喉を鳴らしながらユキムラの手のひらに擦り寄った。

ユキムラ、君は変わったね。
前と比べて随分強くなったし、ポケモンと心が通わなくて不安そうな瞳をすることもなくなった。
うん、気にすることないよ、ユキムラ。
君にじめんポケモンの気持ちが伝わらないように、クノイチには僕の気持ちは伝わらない。
その代わりに君は、僕のことをたくさんわかってくれてるじゃない。
それに君がわからないなら、僕が教えてあげるから。
じめんタイプはそんなに好きじゃないけど、君のためになら頑張れる。

ユキムラが僕の目をみて微笑んだ。


「頼りにしているぞ」


そう言いながらユキムラが僕の翼に触れる。

そうだ、僕も変わった。
君の腕に抱かれて守られていたあの時とはもう違う。


「今日はお館様に休むように言われてしまった。すまないが付き合ってくれるか」


僕の背中には羽根が生えた。
あの雨の日、君が僕を導いてくれたみたいに、今度は僕が君を連れていくよ。

ねぇユキムラ、どこがいい?


「どこでも構わない。そなたが連れていってくれるなら」


その言葉に嬉しくなって、僕は一声大きく鳴く。
体をのばし、翼を広げた。
ユキムラが優しく頭を撫でてくれる。
甘えるように胸に顔を埋めれば、あの日と同じお日さまのにおいがした。















end.

















ダイチ出身なのにじめんポケモンと一切リンク出来ない幸村に激しく萌える…!
そしてじめんポケモンのプロなはずなのにリザードンとも金リンクなお館様に惚れ直した。
幸村とリザードンがベストリンクで本当によかった。








2012.10.20up