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大人には逃げてはいけない場面がある。 どんなに嫌でも必ず通らなければいけない道はあるものだ。 そんなことわかってますけど、とカイヒメは思う。 なんで今、あたしにそれが回ってきているんだろう。 「それで、どうするのですか?」 話題の中心となっているダイチのイクサ場を眺めながら、アヤゴゼンがいつもの薄い笑顔を浮かべている。 後ろでユキメノコが同じようにたおやかに笑んでいるのもまた、何とも場違いで逆に辛い。 だから、どうしてそんな他人事みたいな顔してるんですか!? カイヒメは頭をかかえたくなった。 綺麗な薔薇には棘がある 舞台はランセ地方の中央部7ヶ国。 民の間で、どの女性ブショーが最も美しくて強いか、と密やかに話題となっていたときだった。 その話を聞きつけたお祭り事(と女性)が大好きなヒデヨシが、じゃあ決着をつけてもらおう!と旗を降り始めたのだ。 提案を受けた主ノブナガは、是非もなし、と一蹴するかと思いきや、ノウヒメに「美しく舞うがよいぞ、おノウ」なんて言いながらご満悦の様子だった。 そこから先のヒデヨシの行動は早く、七カ国のブショーリーダーたちを人好きのする笑顔と得意の話術で説き伏せ、あれよあれよという間に舞台を整えてしまった。 そのため女性ブショーたちは、戸惑いながらもイクサに挑むこととなる。 ある者は腕試し、ある者は女のプライドを賭けて。 カイヒメもまた、相棒ダルマッカを連れてイクサに挑んだ。 自分で言うのもなんだが、なかなか善戦した方だと思う。 結果として負けてしまったけれど、ダルマッカは最後まで"とうこん"を見せて頑張ってくれた。 それに何より、民の声が近くに聞けたのが嬉しい。 イクサの間だけでなく、負けたあとも、「お疲れさま、姫様」「わしらはずっと姫様の味方じゃ」なんて声が聞こえて、危うく涙腺が緩むところだった。 だから、ブショーリーダーではなくなってしまったけれど、全てのイクサが終わるまで戦い抜こうと思ったのだ。 それが今、このイクサは何なんだろう。 カイヒメは遠い目になる。 現在、戦いは二大勢力の闘争へと発展していた。 ノウヒメとオイチ。 開始当初から、圧倒的な勢力を持って突き進むノウヒメ。 ノブナガの前で無様なイクサは出来ないとの覚悟からだろう。 その妖艶な笑みを絶やさずに、華麗にイナヒメ軍を撃破し、軍を進めていた。 カイヒメもまた、ノウヒメ軍に負けてしまった軍のひとつだ。 最初は子猫ちゃん、だなんてからかわれていた気もするが、最近よく話すようになってきて、ノウヒメの人となりが少しわかってきた。 敵には挑発的な言動をするし容赦ないけれど、一度味方になったら実は優しい。 わかりづらいけど、意外と良い人、だと思う。 そして何より、この色気こそモテる秘訣…!?と、カイヒメはこっそり日々研究させてもらっていたりする。 対するオイチ軍。 正直なところ、当初カイヒメはこの軍が残っているのは意外な思いがしていた。 誇り高き雷神ギンチヨと氷の女王アヤゴゼンを撃ち果たしてまで進軍するような女性に見えなかったからである。 だがその理由も、だんだんとノウヒメ軍に属しているうちにわかってきた。 普段のオイチは誰にでも優しくおとなしい印象だが、何故だろうか、相手がことノウヒメとなると随分と態度が変わる。 丁寧な言葉遣いはそのままに、よく聞いてみるとなにやら言葉に毒が混じっている気がする。 それを証明するように、周辺諸国をプクリンのハイパーボイスで一蹴し、ノウヒメ軍に対抗するかのように領地を拡大している。 …オイチ様、なんか怖い。 皆の統一された感想だ。 そんな両軍が、3カ国ずつを手中に収め、ついに直接対決の時を迎える。 ノウヒメ軍がオイチ軍のいるダイチの国に攻め入ったのだ。 オイチの傍に控えるのは、ギンチヨとアヤゴゼン。 対してノウヒメ軍に加勢するのは、イナヒメとカイヒメ。 誰もが思った。 これは宿命の戦いである、と。 イクサ自体もまた、両者一歩も譲らなかった。 まずはオイチ軍のアヤゴゼンのユキメノコがノウヒメのムウマージにこごえるふぶきを浴びせる。 しかしこの攻撃で倒すには至らず、ユキメノコはカイヒメのダルマッカのかえんぐるまに倒れた。 だがそのダルマッカも、オイチのプクリンのハイパーボイスに倒される。 イナヒメのポッチャマがプクリンにあわを繰り出し反撃するも、ギンチヨのコリンクにスパークを浴びて戦闘不能になった。 しかしノウヒメ軍も負けておらず、ムウマージがシャドーボールでコリンクを撃破した。 まさに互角の戦い。 互いの意地と意地がぶつかり合い、非常に見ごたえのあるイクサであり、民もブショーも大歓声を上げて盛り上がっていたところだったのだが。 ここまで来て、皆が気付き始めた。 残りのブショーは、ノウヒメとオイチ。 パートナーはそれぞれ、ムウマージとプクリン。 あれ?これ…決着、つかないんじゃね? ムウマージのゴーストタイプの技は、オイチのプクリンにはダメージを与えられない。 だが逆も然り、プクリンのノーマルタイプの技は、ノウヒメのムウマージには効果がない。 つまり、どちらの攻撃も当らない、一種の硬直状態が出来上がってしまったのだ。 「お義姉さま、引いてください」 こうなった場合本来は、攻め入った側が時間切れ判断され、ノウヒメ軍の敗北、オイチ軍の勝利となるはずだ。 オイチの冷静な言葉が耳に入る。 あーあ、負けちゃったかぁ。 カイヒメは目を回していたダルマッカを抱き上げ、頭を撫でてあげながら、次の戦いへと思いを馳せていたのだが。 予想外にもノウヒメは、その余裕たっぷりの笑みを浮かべながら囁いた。 傍らのムウマージがくすりと笑う。 「イチ、まだよ。私のターンは終わってはいないわ。私が行動終了を宣言しない限り、イクサは続くのよ」 「お義姉様…!」 …え。 成り行きを見守っていたカイヒメはぽかんと口を開ける。 観客席の歓声も一気に凍りついたのがわかった。 確かにイクサには、ターン回数制限はあるが、ターン終了までの時間制限はない。 ということはこのままノウヒメが終了宣言しなければ、いつまでも負けになることはない…けれど。 オイチが普段より幾分か低い声で呟く。 プクリンもその大きな目を細め、体を膨らませて怒っている。 「そうまでして、私に負けたくないんですか」 「何とでも言いなさい。この状況が嫌ならあなたが負けを宣言すれば良いのではなくて?」 「…お義姉様」 …ノウヒメ様、大人げない。 カイヒメは心の底から思ったが、さすがに口に出せなかった。 これ、どうするよ。 観客たちが次第にざわつき始める。 大丈夫か、このイクサ終わるのか、ざわめきの中に数々の言葉が飛び交う。 ただ一人観客の中からよく響く声が聞こえてくる。 「クックック…さすがぞ、おノウ。イチも引かぬか…存分に戦うがよい、ぞ」 さすが魔王ノブナガ。 こんな状況をも楽しんでいるようだ。 だが他の一般市民はこの呟きを聞かなかったことにした。 大会運営を仕切っていたヒデヨシが指示を出し始める。 どうにかこの硬直状態を止める術がないかと、ルールブックの確認なんかも始まったようだ。 慌ただしく走り始めた人々と観客のざわつきの中、カイヒメもまた、呆然としながら呟いた。 「えぇ~…、これ、イクサじゃなくて我慢比べになっちゃうんですかぁ…」 「そのようですね」 うふふ…と、こちらも楽しそうに笑うアヤゴゼン。 ユキメノコも手を口元にあてて優雅に微笑んでいる。 笑ってる場合じゃないと思うんですけど、とカイヒメは肩を落とした。 目をさましたダルマッカがきょろきょろしながら頭によじ登ってくる。 それを落とさないように気を付けながら、カイヒメは他のブショーたちを振り返った。 「ねぇちょっと!イナ、これでいいわけ!?あたしたちからも何とか言わなきゃだめじゃない!?」 カイヒメは友人・イナヒメに声を掛ける。 正々堂々をモットーとしている彼女がこの状況を見逃すわけはない、との考えだった。 しかしカイヒメはこの考え方が誤りだったことに気付く。 イナヒメはこの状況を把握していないようだった。 というか、目に入っていないらしい。 彼女の視線の先にあるもの、それはギンチヨとコリンクだった。 「今のイクサの敗北は私の指示のミスだ。コリンク、お前のせいではない」 コリンクがしょぼんとしながら俯いている。 常に勝利を掲げているギンチヨのパートナーとして、イクサで負けてしまった事に責任を感じて落ち込んでいるようだ。 励ますギンチヨの声は優しい。 しゃがんでコリンクの頭をしばらく撫でていると、コリンクがやっと顔を上げる。 その途端、ギンチヨの声が急に裏返った。 「だ…だから、そんなうるうるした瞳で私を見るな…!かわいいにも程がある…!!」 おずおずと近寄ってくるコリンクを、顔を赤らめながら抱き上げるギンチヨ。 その表情が普段の誇り高き雷神の姿と全く重ならないのはもはやお約束。 そしてパートナーとの絆を深めあっているギンチヨに熱い視線を送るのがイナヒメだった。 「立花様、凛々しい…!コリンクの可愛さにメロメロになっているお姿も素敵です!」 両手を胸の前で合わせ、恋する乙女そのものといったとろけるような視線を送るイナヒメにもまた、普段の清楚な大和撫子の表情は見受けられない。 そんなイナヒメの心が伝わっているのか、相棒のポッチャマも全く同じポーズでコリンクを見つめている。 …このふたり、リンク率めちゃくちゃ高いのかも。 カイヒメはそんなことを思った自分に、更にむなしくなった。 「それで、どうするのですか?」 アヤゴゼンがまるで他人事のようにカイヒメに尋ねてくる。 そんな年上をちょっぴり恨みながらも、カイヒメは溜息をついた。 確かにアヤゴゼンに言ってもらうよりも、自分がノウヒメを説得に行くのが適任のような気がしている。 どうやらノウヒメとアヤゴゼン、相性がすこぶるよくないらしい。 事あるごとに周囲を凍りつかせるような嫌味の応酬を繰り返していた。 しかも以前、アヤゴゼン軍はノウヒメ軍に倒され、敗走を余儀なくされている。 その際、ノウヒメはアヤゴゼンをスカウトしようとはしなかったし、アヤゴゼンも登用を断って在野に下った。 そしてその後フリーブショーになっていたところ、オイチ軍にスカウトされて現在に至る…という経緯がある。 こんな経緯を知っているからこそ、正直このふたりのやりとりなんか見たくない。 どうせ泥仕合になるのは目に見えている。 「あたしがノウヒメ様に言ってきます。このイクサ、うちの軍の負けでいいんじゃないですかって」 大人には逃げちゃいけない時がある、きっと今がその時。 ええいもうどうにでもなれ! もはや投げやりになってきたカイヒメが、ノウヒメの方に歩き出した、そんな時だった。 「伝令!西方のサナギの国にて、ランマル軍挙兵!現在ゲンムに進行中とのこと!」 瞬間、ノウヒメとオイチが振り返る。 現在ノウヒメ軍・オイチ軍、共に3カ国ずつ。 その残りの1か国を治めていたのが、今話に挙がっていたランマル軍だった。 今まで他国に攻め入る様子も見せず、イクサに乗り気ではないように見えた国だ。 1国で戦力も恐るるに足りず、との判断から、ノウヒメもオイチも先に相手国の勢力を削ぐ方に向いていたのだが、それが今回は仇となったのか。 二人がそんな考えを持ったとき、ふと上空に大きな飛行船が通りかかった。 そこから顔を出して手を振っている女性たちが見える。 「もうっ!ノウヒメ様もオイチ様もケンカばっかり!おしおきだよ!」 「教えよ!何故わらわはこのイクサでブショーリーダーでないのじゃ?おーぼ-じゃ!」 「にゃは、お二人ともイクサに夢中で防衛が甘いよん?」 「ランマル様、ほんにかいらしいこと。勝たせてあげますよって」 「うわわわわ、みなさんおやめください!」 ランマル軍が1国なれど勢力を蓄積していたのか、それとも不満を持った女性ブショーたちに権力を一気に握られてしまったのか。 騒がしい声を残しながら、飛行船はゲンムの国に向かっていく。 ゲンムは現在ノウヒメ軍の治める国だが、残っている者だけではあの強力なブショーたちを相手にするには心もとない。 残念ながら城は奪われてしまうことだろう。 それにしてもおネネ様とガラシャとクノイチとオクニを相手にするなんて、ランマルの気苦労も知れるというものだ。 でもまあブショーリーダーたるもの、配下ブショーの責を負うのも務め。 「うふふ…面白いことをしてくれるじゃない、ランマル」 「ランマル…次は倒さなければならないようですね」 彼女たちの矛先は、何故かこのイクサに参加している少年ブショー・ランマルに向いたようだ。 観客の多くは、この後起きるであろう激しいイクサを思い描いて、何やら背中に冷たいものが走るのだが。 「ククク…フハハハハ!良いぞ、おラン。存分に乱れよ!」 ノブナガ的には大ウケだったらしい、大爆笑である。 その声を聞きながら、頑なにターンエンドを宣言しなかったノウヒメがついに折れた。 「イチ、一時休戦ね。今回は私の負けでいいわ。次に戦うまでに倒されないでちょうだい」 「お義姉様こそ、防衛にも力を入れられるといいですよ」 「ふふ、肝に銘じておくわ」 だから最初からすぐに負けを認めればよかったのに。 カイヒメの心の呟きは誰にも届かない。 観客たちも安心したように散っていく。 次の大きなイクサは来月、ランマル軍とノウヒメ軍になるだろうか。 このイクサはまだまだ終わりそうにない。 緊張感が抜けて脱力した体を引きずりながらカイヒメは思った。 それでも硬直状態を止めてくれてありがとう。 多分次は徹底的に狙われると思うけど…がんばれ。 軍を引き上げていくノウヒメを追いながら、カイヒメは心の中で不憫なブショーリーダー・ランマルに手を合わせた。 end. 折角のひな祭り、がんばれ女の子!の気持ちを込めて。 無双の女の子はみんなかわいい。 …あ、一人男の子混じってた(笑) 2013.03.03up |