「お待たせ、ツタージャ。それじゃあ始めようか」

モトナリが手にシャベルを持って現れたのは、新年を迎えて大分日が落ち、辺りが夕焼けに包まれた頃だった。
ほんの少し疲れを滲ませた優しい笑顔に嬉しくなる。
お庭のひんやりした風に吹かれながら、ボクはわくわくしてモトナリに駆け寄った。






新しい年を






モトナリの新年はとっても忙しい。
年が明けるとすぐに、城のみんなと共に新年の儀礼を行う。
暗い中行われるちょっぴり退屈な式典で、一年の国の無事をお祈りするんだって。
しかも今年は何だかトクベツな年らしい。
モトナリが今年のエトが何とか言ってたけど、難しくてよくわからなかった。
でも今年は大事なんだっていうのはわかったから、途中うとうとしかけたけどガマンしてずっと起きてたよ。
モトナリはずっと真剣にお祈りしている。
去年はアオバにも台風が来た。
みずポケモンたちは元気だったみたいだけど、作物がダメになっちゃったところもある。
あの時モトナリはとっても悲しそうだったから、真剣にお祈りしているんだ。
ボクもモトナリを見習って、小さく手を合わせてみた。
今年はそういうことがない、良い年になるといいな。
長い儀式が終わって、モトナリが部屋に戻ろうとまだ暗い廊下を歩き出す。
式典のときと違う、いつものモトナリの優しい瞳と目が合ったので、ボクは肩に飛び乗る。
つつがなく終了してよかったよ、って笑うモトナリを見てると、よかったってボクも嬉しくなった。
でも、ちょっとだけモトナリの挨拶は長かったよ、とも思った。

部屋に戻っても、モトナリの仕事はまだまだたくさんある。
明るくなるまでは、みんなに渡す新年おめでとうの手紙をずっと書く。
お日さまが昇ってからは、挨拶に訪れた民のみんなへのご挨拶。
モトナリはそういうひとたちと一言ずつ丁寧に言葉を交わす。
お変わりないですか、風邪には気を付けて、何かあったらすぐに言ってくださいね、などなど。
テルモトたちは時間がかかりすぎって心配するけど、ボクはモトナリのこういうところ、偉いと思う。
だって言葉をかけられたみんなは、本当に嬉しそうに笑うんだ。
モトナリがたくさんのひとに信頼されてるんだってわかって、ボクもなんだか誇らしい。
ときどきボクの尻尾を掴んでこようとする子供たちにはちょっとムカってするけど。
ブショーリーダーのパートナーも、なかなか大変。

お昼が過ぎて夕方になって、やっとモトナリの長い長い新年の仕事が終わる。
ブショーのみんなも見送って、ボクたちにはやっとおやすみが訪れる。
軽く伸びをするモトナリの膝にお疲れさまって飛び乗ったら、モトナリがいつもの優しい顔で言った。

「今年は君にも大変な思いをさせちゃったね。だから今日はツタージャのしたいことに付き合うよ。何かあるかな」

何でも言ってごらん、と微笑まれて、ボクはびっくりしてモトナリを見上げる。
確かにボクも疲れたけど、ボクよりずっとモトナリの方が疲れてるに決まってる。
それでもモトナリはいつだって優しい。
それじゃあひとつだけ、わがまま言ってもいいかな。

(ボク、モトナリと一緒にきのみが植えたい)






「ツタージャはオレンのみが好きなのかな?」

夕焼けに照らされながら、ボクらは並んで地面にしゃがんだ。
モトナリの部屋から見える小さなお庭の地面に、等間隔に穴を掘りながらモトナリが笑う。
ボクがその穴にチュリネからもらってきたオレンのみを置くと、モトナリが優しく土をかぶせる。

「私は好きだよ。花は綺麗だし良い香りだ。しかも傷も治してくれるなんて一石二鳥、いや三鳥くらいかな」

ボクにはちょっと大きいじょうろを持つのを、モトナリがそっと手伝ってくれる。
一緒にふかふかのつちにお水をあげると、じめんがきらきら光ってとってもきれいだった。

あのね、モトナリ。
ボクもオレンのみ、すきなんだ。
この前モトナリがボクの作ったオレンのきのみジュース、おいしいって言ってくれたでしょ?
いつも忙しいキミの疲れをとってあげられる、魔法の実。
だからボク、オレンのみがだいすき。

「たくさん出来ると良いね」

うん、大事にお世話しようね。
たぶんモトナリは本に夢中になったら、お水あげるの忘れちゃうでしょ。
でもだいじょうぶ。
ボクが忘れないでねって怒るから。
満足そうに笑ったモトナリに、ボクもまた尻尾を振った。
使った道具を片付けながら、モトナリがふとこちらを振り返って微笑んだ。

「そうだ、ツタージャ。言い忘れていたことがあったんだ」

今年もよろしく。









end.


















2013年巳年、今年もよろしくお願いします。








2013.01.06up