「さて、始めようか幸村。フーディン頼むぞ!」 「兼続殿、全力で参ります!リザードン!」 ずるい。 ずるいずるい。 やっぱりご主人さまはリザードンがいちばんなんだ。 ぼくのきもち いつものお庭の訓練場。 でも今日はいつもとちょっとだけ違う。 フーディンのご主人が来て一緒に訓練するんだ。 兼続殿と手合わせは久しぶりだ、って朝からご主人さまは楽しそう。 でもぼくにとっては面白くない。 「リザードン!シャドークロー!」 「む、さすがだな幸村!フーディン、サイコキネシスで押し返せ!」 こういうときいつもご主人さまが頼りにするのはリザードンなんだ。 リザードンはヒトカゲのときからご主人さまと一緒だった。 確かに息ぴったりでとっても強い。 ぼくだってオトナだからちゃんとわかってる。 けどさ。 (一緒にいた長さなんて、もうどうしようもないじゃない) リザードンに負けたくない。 でもご主人さまとずーっと一緒にいたリザードンにはどうやったら勝てるの。 とげとげしたココロをなおすためにぼくは散歩することにした。 行き慣れたその部屋に入る。 お部屋の入口近くに金色の毛並み。 キュウコンだ。 こんにちは、と鼻を合わせてごあいさつ。 キュウコンは優しくほっぺをなめてくれた。 ぼくのココロはちょっと浮上。 やっぱりキュウコンすきだなぁ。 ぼくはもうひとりを探してまわりを見回す。 (…あ) 探してたコマタナは、キュウコンのふかふかの尻尾の中でお昼寝していた。 (なーんだ、つまんない) でもまぁコマタナはコドモだから仕方ない。 ぼくみたいに悩みのあるオトナは時々しかお昼寝しないものなんだ。 全くコドモは気楽でいいよね。 また面白くなくなってきて、ぼくは部屋のなかを見てまわった。 相変わらずこのお部屋は本がいっぱい。 ちょっとごちゃごちゃしてるとおもう。 ふといいニオイがしたのでぼくはそっちに向かった。 机の上に一粒だけ食べられたおいしそうなおだんご発見。 (これ、ご主人さまが好きなおだんごだ) 「…そこで何をしている」 こわーい声がして、ぼくはそっちを振り返る。声とおんなじこわーい顔をしたひとがぼくを見ていた。 (あ、コマタナのご主人) ぼくはこのひとのこと、あんまり好きじゃない。 いっつもフキゲンそうな顔してるし、コマタナと遊んでたらうるさいって言うし(あ、でもそういうときはキュウコンが外で一緒に遊んでくれるんだ。やっぱりぼくキュウコンのことだいすき!)。 ほら、いまも。 「その書類を踏んだり焼いたりしたら庭の池に放り込んでやる」 やっぱりフキゲンな感じだった。 ぼくは知らんぷりして再びおだんごのニオイをかぐ。 これ、前にご主人さまからもらったけどおいしいんだよね…一粒くらいくれないかなぁ。 「物欲しそうな顔をしてもやらんぞ」 (けちんぼ!) プギー!と鼻を鳴らして抗議してみたけどダメだった。 前は甘いものはいらんってお菓子くれたのに。 ちょっとくらいおすそわけしてくれたっていいじゃない。 「お前、幸村のところにいなくていいのか」 ご主人さまのことを聞かれて、ぼくは口をとがらせながらお庭を見る。 そこにはフーディンの技をかわしてドラゴンクローを仕掛けるリザードンの姿。 ご主人さまが言わなくても、目を合わせるだけで何でもわかっちゃう。 くやしいけど強いんだ。 …やっぱり、ずるい。 「幸村の隣をとられて悔しいか」 そんなこと認めたくなくてぼくは聞こえないフリ。 眼を閉じてふて寝する。 「確かに幸村とリザードンとのリンク率は高い。今のお前ではあの位置には立てまい」 コマタナのご主人に言われるとむっとする。 そんなこと知ってるってば。 しばらくふて寝を続けていたらコマタナのご主人が呟いたのが聞こえた。 「…子供だな」 (なにそれ!) いらいらしてぼくは飛び起きる。 ちょっと笑ってた感じだったのが余計むかつく。 今度は声を出して抗議してやろうと思っていたら、予想外のコトバがかけられた。 「単純に共にいた時間の長さでは奴に勝てない。ならばそれ以上の絆を作るまでだろう」 …あれ? なんか、確かにそうだなって思っちゃった。 このひとと意見が合うなんて珍しいかも。 「過去がどうだろうと関係ない」 そのコトバはとげとげしてたぼくのココロにすっと入っていった。 そっか、そういうもの、なのかな。 「俺も負けてやる気はなかったしな」 ん?とぼくはコマタナのご主人を見上げる。 その目はぼくのこともご主人のことも見てなくて。 フーディンのご主人を見てるみたいだった。 …ぼくとご主人とリザードンの話なのに、なんで? なんか変だなって思ってたら急に声をかけられた。 「ポカブ!ここにいたのか、探したぞ」 (ご主人さま!) お庭の方からご主人がこっちに向かってくる。 フーディンに勝ったのか、嬉しそうな顔。 リザードンもご主人の後ろに控えてるけど、相変わらず穏やかな表情をしてるだけ。 こうやってすごいことやってるのに全然偉そうにしないのがまたずるい。 でもさっきまでほど気にならなかった。 「三成殿、ご迷惑をおかけしました」 「大事ない。腹が減っていたようだったがな」 「ふふ、そうだろうと思っていました。ほら」 差し出されたのはだいすきなぽにぎり。 頼りにしているぞ、と頭をなでられて、ココロがじんわりあったかくなる。 ぴょこんとご主人の腕に飛び込んだ。 うん、一緒にいた時間なんて関係ないかも。 まだまだリザードンにはかなわないけど、ぼくはご主人さまがだいすきで、ご主人さまはぼくのことをよく知ってて、優しくて。 今はまだそれでいい、かもしれない。 でも。 (ぼく、負けないけどね) 三成殿もお団子もう一個いかがですか、お前じゃあるまいしそんなにいらん、って会話も聞こえる。 フーディンのご主人も後ろからやってきて、3人でなんだか楽しそう。 ふとご主人さまの後ろにいたリザードンと目が合った。 なんにも言わないけどぼくの方をじっと見て、もらったぽにぎりは手に持ったまま。 リザードンてば、ひょっとして全部わかってるのかも。 ご主人さまに寄り添っている姿はやっぱりカッコよくて。 くやしかったからリザードンのぽにぎりをひとくちかじってやった。 (でもこの腕のなかはぼくのもの!) end. 幸村とリザードンって最高にぴったりだよね!という話。 ゲーム発売前幸村がポカブと並んだ絵はあまりにもイメージと合わなかった・・・。 こんなこと言ったらポカブにとっしんくらいそうですが(笑) 2012.08.25up |